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最高裁判所第二小法廷 昭和22年(れ)181号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人両名の辯護人鈴木信雄、同室伏禮二の上告趣意書は「第一點 一原審判決はその理由第一で被告人中田幸男が昭和二十一年六月十七日より同年十月十日頃迄の間自宅に石上茂所有の日本刀一振を隠匿して所持した事実を認定し、之に基き同人に對し銃砲等所持禁止令違反として有罪の判決をされたが、右は罪とならない事実に就き有罪と認定した違法の判決であります。何となれば同禁止令は昭和二十一年六月十五日より施行されたが同令附則第二項に於て、同令施行の際現に銃砲を所持する者でこの勅令施行後も引續き之を所持しようとする者は同令施行後四ヶ月以内に(最初二ヶ月以内と規定の處昭和二十一年八月十三日勅令第三百八十四號により更に二ヶ月延長)即ち結局昭和二十一年十月十四日迄に地方長官に許可の申請をすべきものとし且この申請に對し許否の處分がある迄は右の許可があったものと規定して居ります。この附則第二項は同令施行に當り經過的特例として同令施行時の銃砲等所持者凡てに對し所持の許可申請期間を同令施行後四ヶ月置いたものと解されます。そして右附則には「第一條第一項の定める處により許可を申請しなければならない」と在るが右申請は右第一條第一項の規定及同令附則第二項の規定に所有者に限らず同令施行の際現に銃砲等を所持する者であれば之を爲し得るのであり然も昭和二十一年十月十四日迄にこの申請をすればよかったのですからこの期間の終了迄は何れの所持者に對しても右申請の有無を確定することを得なかったと云ふことが出來ます。それ故右附則に「この申請に對して許否の處分がある迄は同令の許可を受けたものと看做す」との規定は畢竟昭和二十一年十月十四日迄は銃砲等所持者の誰れに對しても右許可のあったものと看做すことになる許りでなく、一方この期間内に申請の在ったものに對しては、若し同年十月十四日迄に之に對する許否の處分がなくとも同日以降この處分のある迄は許可のあったものとして取扱ふとの趣旨と解すべきは右附則の規定の文言上當然の歸結と云い得ます。尚この點に關しては銃砲等所持禁止令適用の疑義について昭和二十一年十二月二十八日警保局公安二発乙第六七號を以て内務省警保局長より京都府知事に對する回答中「昭和二十一年勅令第三〇〇號銃砲等所持禁止令の附則は六月十五日より十月十四日迄の期間内は所持許可を申請することが出來、申請した場合は許否の決定ある迄適法に所持することを認めたものである。而して何人と雖もこの期間の完了迄は何時たりとも許可申請が出來るのであるから結局この期間内は同令第一條の規定に拘らずこれを不法に所持するものと云ふことは出来ない趣旨と解すべきものであるから御了承ありたい」と在り内務當局としても同令附則の解釋上その取締に當り少くとも同令施行後四ヶ月間は不法所持ではないとの見解及取扱と解せられる。然るに原審判決はその理由中に「右附則は所定期間内に所持許可の申請を爲した者に適用あるに留り所定期間を右申請を爲さずして過ぎたる者には適用なきこと明かなるを以て」と述べて居るが之は叙上論及した理由より同令の解釋を誤ったものと云ふべきであります。二、更に本件被告人中、中田幸男の如き原審自ら同人が右に所謂所定期間内(十月十四日以前)に既にその所持して居った日本刀を所有者の家人岩崎銭幸に返して了ひ、同年十月十四日には最早所持の事実の無かったことを認定しながらこの者に對して原審判決が「所定期間を右申請を爲さずして過ぎたるもの」と言及し、恰も同人が右申請期間を徒過した侭十月十四日以後に於ても所持して居た爲め同令附則の適用がないものゝ如く説いて居る點は本件中田幸男に就き認定した事実に對し法律の適用を誤ったものであります。」及び「第二點 原審判決はその理由中「被告人原田菊二は昭和二十一年十月十日頃岩崎銭幸と共謀の上日本刀一振を中田幸男宅より片瀬岩雄方附近迄携帶して同人に之を預け」と認定した事実に對し銃砲等所持禁止令違反として有罪と爲したが、之は叙上第一點に於て論述した處と同一の理由から同令違反の罪を構成しない事実に對して有罪として同令の罰則を適用した違法があります。」というのである。

昭和二十一年勅令第三百號銃砲等所持禁止令は昭和二十年勅令第五百四十二號「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に關する件」にもとづく勅令であって、日本国民に對し、同勅令の施行後は銃砲火薬類及び刀劍類の所持を、全面的に、きわめて厳重に禁止するものであることは、同令制定の趣旨に照し、明瞭である。たゞ、この原則に對し、ごく僅かな例外として(一)法令にもとづき職務のために所持する場合及び(二)同令第一條第一項一乃至四に該當するものについて、同條所定の地方長官の許可を受けた場合、この二つの場合に限り、その所持を認めているのである。しかして同令附則によれば、右(二)の場合について、同令施行の際、現に銃砲等を所持するもので、同令施行後も引きつゞきこれを所持しようとするものは、同令施行後二ヶ月以内(この期間は、その後、昭和二十一年勅令第三百八十四號によって、同年十月十五日までと改正せられ四ヶ月以内と變更された。)に第一條第一項に從って、地方長官に許可の申請をしなければならぬと定め、その申請に對して、許否の處分のあるまでは、同項による許可を受けたものとみなすと規定しているから、この場合はまた、(二)の場合と同樣に、銃砲等の所持は適法なものとされることは勿論であるが、以上の場合の外は、同勅令施行後の銃砲等の所持は絶對に禁止せられているのである。

同勅令の附則に、前述べたような二ヶ月(後に四ヶ月)の期間をもうけたのは、(二)の場合について、地方長官に許可を申請すべき期間を定めたもので、この期間經過の後は、許可の申請をすることもできないという趣旨であって、この期間内の所持をすべて適法ならしむるという意味でないことは、この勅令制定の趣意から考へて、容易に、理解せらるゝところである。であるから、右の期間内に、許可の申請をしたものに對しては、たとえ、許否の處分が右の期間を超えて未定であっても、そのあいだの所持を適法ならしむると同時に、この期間内でも許可の申請をしないで、銃砲等を所持することは、絶對に許されないと解すべきである。況んや、右の期間内、ついに同令第一條にもとづく許可の申請をしなかったものに對しては、同勅令施行後の銃砲等の所持を、適法ならしむる何等の理由も根據もないのである。

原判決の認定した事実によれば、本件被告人等の刀劔の所持は、すべて前記勅令の施行後であって、しかも、以上説明したいづれの例外の場合にも該當しないことは明白である。原審が各場合につき、いづれも「法定ノ除外事由ナクシテ」と判示した所以である。

論旨は、右勅令附則について、別異の解釋を施しその見解にもとづいて、原判決を攻撃するものであって、そのあやまりであることは、前段説明したところによっておのずから、あきらかである。論旨は理由がない。よって、刑事訴訟法第四百四十六條に從ひ、主文の通り判決する。

以上は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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